アリス「う~ん……」
昼間の密林をゆっくりと歩く。
閑静な密林の景色からは、例の赤い鳥が現れるなんて思えない。
大きな耳をもち、口からは炎を吐きだすという謎の怪鳥……
アリス「ほんとにいるのかな……」
姿かたちからしても、俄かには存在を信じられない相手。
モンスターって、もっとこう、獰猛な感じのばっかりだと思ってたんだけど……
アリス「ぶたさんがいるだけだよね……」
向こうの洞窟はどうだろうか。
入ってみよう。
アリス「ひゃっ」
洞窟の中にはランポスが数匹たむろしていた。
ランポスと言えば、演習中に苦労した相手だったから、できれば今関わりたくはない。
もしその怪鳥が現れるのだったら、その時の為に少しでも体力を温存しておきたい。
アリス「ふー」
ダッシュで洞窟を出る。
あの場所が彼らの縄張りになっているからか、洞窟の外まで追ってはこなかった。
アリス「けど、本当に来るのかな……」
まぁ相手も生き物だし、気分で行先は違うと思うけど。
出なかったら……村に戻ってまた次の日にしようかな。
アリス「ふわわ、眠いや……」
そういえば、昨日は少ししか眠っていない。
謎の怪鳥がどんなものか、楽しみで眠れなかったのだ。
姿かたちは見た通り。あと、鳴く、らしいんだけど……
アリス「ほえ?」
ばっさばっさ
と、木陰で仮眠を取ろうと思っていた所に、何か羽音が聞こえる。
アリス「もしかして、もしかして?」
木陰に姿を隠しながら羽音のする方を見る。
アリス「おー」
すると、絵で見たあの怪鳥がそこに降り立っていた。
アリス「うわ……」
楽しみにしていた。してたんだけど、こうして相手を前にすると脚が動かない。
手が震えるとまではいかなかったけど、意を決して怪鳥の前に飛びだすことができないでいた。
モス「ぶき」
アリス「ほえ?」
と、近くにきたモスが鳴く。
なんだろう、私、ここ邪魔?
アリス「あ」
と、モスに気をとられていると、怪鳥がこちらに気付いたのか、じっと私を見ていた。
アリス「あははー」
笑いながら立ち上がり、その場を去ろうと……
イャンクック「クエエエエエエ」
アリス「やっぱりだめー!?」
そんなこんなで、怪鳥との戦闘が始まってしまった。
アリス「わーん!」
アリス「すごい耳……というか、嘴?もおっき~。あれって矢刺したら壊れたりしないかな」
アリス「落とし穴もばっちり! ちゃんと教えてもらったこと覚えてるもん! あー、ぶたちゃん邪魔しちゃいやだよ~」
アリス「わ、わ! なになに! 怒ったの? まぁこんなに撃たれてちゃね……」
アリス「わ、なんか吐いた! これが火炎……ここまで熱いのくるよ~」
苦戦すること数分……
流石飛竜というだけあってか、体力も今までのモンスターとは比べ物にならない!
アリス「あう、どうしよう……」
このままだと、こっちの体力が先に尽きちゃう。
アリス「はぁ、はぁ。もう弓ひけないよ……」
まずい。
どこかに逃げて休憩できる場所を探さないと……
アリス「崖の方に逃げるしかないっ!」
最後の力を振り絞って崖の方に走る。
イャンクックがおってくるのを確認しながら、なんとかありったけの力で走った。
………………………
アリス「ふう……」
なんとか逃げ切ることができたようだ。
アリス「やっぱりまだ無理なのかな……」
頑張って戦ってはみたものの、相手の動きに対応することさえ難しい。
アリス「こんなじゃあいつは倒せないよ……」
やっぱり私には無理なのかな、ハンターなんて……
……なんだかすっごく疲れちゃった。
ここならモンスターも来そうにないし、寝ちゃおうかな……
アリス「…………」
………………
???「あら?」
???「どうしてこんな所に人が……」
………………………
アリス「!」
あれ……?
私、どこにいるの?
アリス「ここは……?」
気がつけば、私はベッドの上にいた。
穏やかな日差しがまぶしい部屋の一角。
私は……何でこんなところに?
確か怪鳥を倒しに密林へ向かったはず……
???「あら、気がついたみたいね」
アリス「ほえ?」
と、声をかけられる。
見れば、少し背が高めの女の人がいた。
アリス「えっと……」
???「驚いた? あなた、密林で倒れてたから運んできたのよ」
アリス「倒れて……」
そうだ……私、怪鳥に苦戦して、それで危なくなったから逃げたんだ。
それで疲れて眠っちゃって……
あぁ、助けてくれたんだ……
アリス「えっと、ありがとうございます」
???「いえいえ。それより、身体は大丈夫?」
アリス「あ、はい」
そもそも、大きな傷を負ったわけでもない。
ただ、身体が疲れてあれ以上戦えなかったんだ。
あう……なんだか情けないな……
アリス「ええと……」
???「あら、ごめんなさい。名前も言ってなかったわね」
アリス「あ、はい……」
???「私はクリスティーヌよ。あなたは?」
アリス「私、アリスって言います」
クリスティーヌ「アリスちゃんね。それで、アリスちゃんは密林で何をしていたの?」
アリス「えっと……怪鳥を……」
クリスティーヌ「イャンクック?」
アリス「はい……」
クリスティーヌさんは私と、綺麗にかけてくれていた武器に目を向けた。
クリスティーヌ「それなりの準備はしてたようね」
アリス「はい……」
狩りとは、自らの命も同様に危険にさらすことである。
だからか、クリスティーヌさんの声色はさっきまでと違って少し鋭くなった。
クリスティーヌ「ライセンスを見せてもらえる?」
アリス「あ、はい」
ハンター証を見せる。
あまり、良い顔はされなかった。
クリスティーヌ「駆け出しだったのね」
アリス「そうです……」
悪い事をしたわけじゃないけど、何だか悪い事をしたみたいに縮こまってしまう。
クリスティーヌ「……また、行くの?」
アリス「へ……?」
意外な一言だった。
まだ早いからやめておけと言われると思った。
アリス「い、行きます!」
クリスティーヌ「そう……」
クリスティーヌさんは目を閉じた。
何か考えているのかな……うん、たぶんそうだと思う。
だから私は、クリスティーヌさんが話し始めるのを待った。
クリスティーヌ「いいわ」
アリス「へ?」
クリスティーヌ「行きましょう。私も同行するわ」
アリス「え、でも……」
クリスティーヌさんにはクリスティーヌさんの用事があるんじゃないだろうか。
クリスティーヌ「うふふ、心配してくれてるのね。確かに私は今、用事があってここにきてるわ。でも、そんなに急ぎじゃないから心配しないで」
アリス「は、はい……」
でも……いいのかな。
依頼って私が引き受けたものなのに……
クリスティーヌ「イャンクックだったわね」
アリス「はい、そうです」
クリスティーヌ「それじゃあ、行きましょう」
アリス「は、はい!」
………………………
クリスティーヌ「ふっ、はっ!」
アリス「…………」
それは圧倒的な光景だった。
縦横無尽に動き回っていた怪鳥……それがのたうちまわり、芋虫のようにごろごろと地面を転がっている。
クリスティーヌさんは刀を持って怪鳥に飛びかかる。
幾つもの斬撃を繰り出し、敵の攻撃を流れるようによけ……
ああ、熟練ハンターってこんな人の事を言うんだなって、思いながら見てた。
アリス「わ……」
クリスティーヌ「ふう」
そして僅か数十秒でカタがつく。
イャンクックは力尽きて倒れ、クリスティーヌさんはゆっくりと刀を鞘に納めていた。
……………………
アリス「すごかったなぁ……」
あの後、クリスティーヌさんは用事を済ませる為にどこかへ行ってしまった。
出来事にしてほんの数時間のことだったけど……私は彼女を好きになった。
私もいつか、あんなふうになれるのかな。
アリス「その為には、もっと頑張って強くならないとだめだよね」
弓を握りしめ、密林の方を見る。
モンスターが生息する場所は、密林の他にも沢山あるらしい。
その未知なる地で、今もハンターとモンスターの戦闘が行われているのだろう。
その輪の中に、私もはやく入れるようになりたい。
そして、奴を……
アリス「あう、おなかすいたな……」
今日はもう帰ってご飯にしよう。
また明日からがんばって訓練しなきゃ!
第三話へ続く
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